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もくげきしゃ

目撃者

国枝 史郎

「探偵」1931(昭和6)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,567 字 · 6 页

青空文庫

貴女以外に誰かこの家におったのですか? 奥さん」

「いいえ、悴は折悪しく留守でございました」

「そして若夫婦の間には何か面白くないことでもありましたか?」

「何う致しまして。これを知ったら倅は何んなにがっかり致しますことやら――」

「すると、何も――」と云いながらケイシイ巡査は両眼を働かせて室の中を隈なく見ていた。やがて彼の視線はエフィの鏡台の上の二個のブラシに注がれたが、別に不審も起さずに他に転じて行った。併しミラの眼には明かに映った。彼女はブラシを片附けることを忘れていた。これは何とか言訳をしなければならないだろう。

「ふーむ、一寸難物だて」とケイシイは我知らず溜息を洩らした。

「犯人はとても手際の巧い奴ですな。奥さん、此所の門の際で若奥さんと貴女と無駄口を喋ったのはつい昨日の事でしたが、よもやこんな事になろうとは誰だって思いもよらないでしょう」ミラはショールを頭からとって肩の後にたらした。突然ケイシイ巡査の声は変った。彼の両眼は急に鋭く輝いた。

「奥さん。貴女の髪は実に沢々と黒かったですな」と彼は云い出した。

「ところで昨夜のことは何も知らないと仰言る――では、一体何う云うわけで一と晩の中に髪の毛がそんなに真白になったのですね?」