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ままのてこな

真間の手古奈

国枝 史郎

「サンデー毎日」1929(昭和4)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,631 字 · 10 页

青空文庫

――有名な宗長親王様の、このような和歌がございます」

「成程」

と、左衛門はうなずきました。

「で、私は申し上げましょう。物事はすべて一筋に、思い定めてはいけませんな。……とその他に和歌はございませぬかな」

「為家卿がうたわれましたそうで――もろともに行かぬ三河の八橋に、恋しとのみや思いわたらん」

「成程」

と左衛門はまたうなずきました。

「そこで私は申し上げましょう。恋しと思ってはいけませんとな。……その他に名歌はございませんかな」

「読人知らずではございますがこのような和歌もございます。――打わたし長き心は八橋の、くもでに思うことにたえせじ」

「成程」

と左衛門はまたいいました。

「蜘蛛手に思う恋の心が、突きつめて一つになった時に、恐ろしい一筋の恋となります。ご用心なされた方がよろしいようで」

すると、俄にお蘭という娘は、物悲しそうに俯向いて、口をとじてしまいました。蒼いまでに白い額の上へ、俯向いた拍子にもつれ毛がかかって、顫えを細かく見せて居りましたが、烈しい感情が胸に起こって、それが顫わせているようでした。

と、その様子をしばらくの間、左衛門は見守って居りましたが、やおら膝をその方へ進ませ長い顎髭を前へ差し出し、さとすような声でいいました。