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めをひらく
眼を開く
夢野 久作
「逓信協会雑誌」1935(昭和10)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,759 字 · 20 页
たしかに人間の声であった。……ヤレ助かった……と思うトタンに私の頭の中で、思い付いたままペンを投出して書きかけにして来た原稿の文字が幾行も幾行も並んで辷って行った。
私は、それからドンナに叫び立てながら、ドンナに苦しみいて雪の道を掻き分けて行ったか記憶しない。やがて向うから最前の猟師の吉兵衛を先に立てた四人の一行が、引返して来るのに出会った時、黒い眼鏡も何もどこかへ落してしまった私は、グッタリとなって雪の中へ突伏した。
「ウワア、これあマア先生、カンジキも穿かねえで、どうしてここまで御座った」
「あぶねえことだった。こんなことをさっしゃる位なら、私たちが一所にお供して来るところだったに……」
「まったくだ。忠平の死骸が見付かって、あそこにグズグズしていねえけれあ先生は、このまま行倒おれにならっしゃるところだったによ」
「忠平の死骸が、先生を助けたようなものでねえか、ハハハ」
「まあまあこちらへ御座らっせえ。肩にかけて上げまするで……」
「これを飲まっせえ。帰りに貰って来た支那焼酎の残りでがす」
火のような老酒の一と口は、私を蘇らせ、元気づけるに充分であった。