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ちちぶきこう

知々夫紀行

幸田 露伴

「太陽」博文館、1899(明治32)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,784 字 · 31 页

青空文庫

さてこれより金崎へ至らんとするに、来し路を元のところまで返りて行かんもおかしからねばとて、おおよその考えのみを心頼みに、人にさえ逢えば問いただして、おぼつかなくも山添いの小径の草深き中を歩むに、思いもかけぬ草叢より、けたたましき羽音させていと烈しく飛びたつものあり。何ぞと見るに雉子の雌鳥なれば、あわれ狩する時ならばといいつつそのままやみしが、大路を去る幾何もあらぬところに雉子などの遊べるをもておもえば、土地のさまも測り知るべきなり。

かくてようやく大路に出でたる頃は、さまで道のりをあゆみしにあらねど、暑に息もあえぐばかり苦しくおぼえしかば、もの売る小家の眼に入りたるを幸とそこにやすむ。水湯茶のたぐいをのみ飲まんもあしかるべし、あつき日にはあつきものこそよかるべけれとて、寒月子くず湯を欲しとのぞめば、あるじの老媼いなかうどの心緩やかに、まことにあしき病なんど行わるる折なれば、くず湯召したまわんとはよろしき御心づきなり、湯の沸えたぎらばまいらせんほどに、しばし待ちたまえといいて、傍の棚をさぐりて小皿をとりいだし懐にして立出でしが、やがて帰り来れるを見れば白き砂糖をその皿に山と盛りて手にしたり。