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ちちぶきこう
知々夫紀行
幸田 露伴
「太陽」博文館、1899(明治32)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,784 字 · 31 页
幸に馬車の深谷へ行くものありければ、武蔵野というところよりそれに乗りて松原を走る。いと広き原にて、行けども行けども尽くることなし。名を問えば櫛挽の原という。夕日さす景色も淋し松たてる岡部の里と、為相の詠めるあたりもこの原つづきなり。よっておもうに、岡部の里をよめる歌には松をよめるが多きようなり。深谷に着きて汽車に打乗り、鴻巣にいたりて汽車を棄て、人力車を走らせて西吉見の百穴に人間の古をしのび、また引返して汽車に乗り、日なお高きに東京へ着き、我家のほとりに帰りつけば、秩父より流るる隅田川の水笑ましげに我が影を涵せり。