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いしころ
石ころ
山本 周五郎
「富士」大日本雄辯會講談社、1944(昭和19)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,450 字 · 23 页
伝説によるとそれは、「信玄公の隠し草鞋」といって作りかたに特別な法があり、雪中を行軍するときなどその足跡によって軍の方向を敵に知られることのないように出来ている、それで筋目ただしい家の者が選まれて作るのだということだった。そうでないにしても年頃の娘たちに武者草鞋を作ったり軍用の蓆を編ませたりすることは、武家の女性としての鍛錬の意味だったことにまちがいはあるまい。それはまたかの女たちにとっても楽しいことのひとつだった。なぜかというと、武家の深窓に育てられてふだん世間に触れる機会がないから、おなじ年頃のものが集って見たこと聞いたこと、経験したあれこれを語りあうことによって世の中のうつり変りも知り、少し不行儀だがそこからは登城下城の侍たちの往来が見えるので、いつの合戦にこれこれの手柄をたてたのはあの若武者だとか、どこそこの陣で大将首をあげたのはあの人だとか、とりどりのうわさ評判をし合うのも娘ごころには秘やかなよろこびのひとつだった。……そういうなかで松尾ひとりだけはいつもなかまはずれだった。どんな話の相手にもならず独りでせっせと仕事に没頭していた。もともとそういうざわめいたことの嫌いな性質だったのだが、容姿が人にすぐれて美しかったのと、父の秋山伯耆守が侍大将として御しゅくん勝頼公の御寵愛人だったのとで、ほかの