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いしをなぐるもの

石を投ぐるもの

宮本 百合子

「文明」1946(昭和21)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,052 字 · 9 页

青空文庫

この一事件は、猶予という形で落着したのであったが、考慮ある人々は、この一事件が暗示しているところが、どんなに深刻であるか、今日なおしばしば思いめぐらしているであろうと思う。

全く不幸な災難としかいいようのないこの事件が、先ず法律的処罰の対象となり得るということに一驚したのは、私だけではなかったろう。検事という職務の官吏が、みんな自家用自動車で通勤してはいない。弁当の足りないことを心のうちに歎じつつ、彼等も人の子らしく、おそろしい電車にもまれて、出勤し、帰宅していると思う。官吏の経済事情は、旧市内のやけのこったところに邸宅をもつことは許さないから、多数の人々は、会社線をも利用して、遙々とたつきのためにいそしんでいるであろう。良人であり父親であるこれらの官吏たちが、わが妻、わが子をつれてたまの休日にいざ団欒的外出と思うとき、第一、そのつつましいたのしさをうちこわすものは何だろうか。交通地獄の恐怖である。検事局と書いた木札を胸にかけて、乗ろうとする粗暴な群集を整理するわけにもゆかない。一私人として立てば、やはり我身をもみくしゃにされ、妻を顧みて「おい大丈夫か」