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さとうどろぼう

砂糖泥棒

黒島 伝治

1923(大正12)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,108 字 · 9 页

青空文庫

なんにもないと、がっかりした顔つきをしたり、ぐず/\云ったりした。

「さあ/\、えいもんやるぞ。」

ある時、与助は、懐中に手を入れて子供に期待心を抱かせながら、容易に、肝心なものを出してきなかった。

「なに、お父う?」

「えいもんじゃ。」

「なに?……早ようお呉れ!」

「きれいな、きれいなもんじゃぞ。」

彼は、醤油樽に貼るレッテルを出して来た。それは、赤や青や、黒や金などいろ/\な色で彩色した石版五度刷りからなるぱっとしたものだった。

「きれいじゃろうが。」子供が食えもしない紙を手にして失望しているのを見ると、与助は自分から景気づけた。

「こんな紙やこしどうなりゃ!」

「見てみい。きれいじゃろうが。……こゝにこら、お日さんが出てきよって、川の中に鶴が立って居るんじゃ。」彼は絵の説明をした。

「どれが鶴?」

「これじゃ。――鶴は頸の長い鳥じゃ。」

子供は鶴を珍らしがって見いった。

「ほんまの鶴はどんなん?」

「そんな恰好でもっと大けいけんじゃ。」

「それゃ、どこに居るん?」

「金ン比羅さんに居るんじゃ。わいらがもっと大けになったら金ン比羅参りに連れて行てやるぞ。」

「うん、連れて行て。