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ガラスをやぶるもの
硝子を破る者
中谷 宇吉郎
「朝日評論」1946(昭和21)年8月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,761 字 · 14 页
その点自然を直接対象とする科学の研究はありがたいものである。ところが、この上京の留守中に大変なことが起ってしまった。それは山頂の観測所がすっかり泥棒に荒されてしまったのである。
孤立した山頂の天辺にある観測所で、人家からは、どの道を採っても二里近くはある。そういう隔絶した地点にある建物のこととて、泥棒にはいる気になれば、極めて容易である。終戦と同時に、入口の戸は五寸釘で打付け、窓も全部板を当てて釘付けにして来たのであるが、二階の明り取りの硝子をこわして、中からあけたので、簡単に破られてしまった。
研究室の中は、目も当てられない始末であった。持ち運びの出来る器械類を盗んで行くのは仕方ないとして、全く不必要に窓硝子を大半壊している。大型の器械は、中の真空管だの測器だのという部分品だけを盗って行ったようである。一番不可解なことは、それだけ持って行けばよさそうなものを、盗った後の器械を床にぶちつけて、滅茶苦茶に壊してあることである。
この山は北海道でも有名な吹雪の難所である。山頂の天地晦瞑の雪嵐の中で二冬を過し、やっと研究装置を完成した助教授のI君は、手塩にかけた器械の無惨な姿を見て、ぼろぼろと涙をこぼしたそうである。