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ガラスをやぶるもの
硝子を破る者
中谷 宇吉郎
「朝日評論」1946(昭和21)年8月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,761 字 · 14 页
知人をたよって鉄工所に頼み込み、やっと装置は出来たが、エンジンから送風器へのベルトがどうしても手に入らない。官庁と統制会社と軍との間を馳け廻って、何度も書類を出して結局間に合わなかった。とうとう低温科学研究所の低温装置用のベルトをはずしてもらって、一月という約束で借りることにした。実地試験中は、研究の方は暫く休んでもらうより仕方がない。英国の霧消散実験では、チャーチルが燃料相にメッセージを発し、主な実験には、夜中でも大臣が立会った。日本の総理大臣から命令される戦時研究では、ベルト五本手に入れるにもこの騒ぎであった。
苫小牧飛行場で、この「消霧車」の試験がほぼ完了して、一同ホッとした時に終戦になった。消霧車は普通では貨車輸送の出来ない厖大なもので、そのまま飛行場に残して来た。ベルトは心配なので、とりはずして装置の中に入れて、外から開けられないように、針金でしっかり縛りつけておいた。
一月ばかりたって、どうにか輸送がきくようになったので、特殊扱いで、やっと送ってもらった。着いたところを見ると、すっかり壊されている。測器類も細々した附属品も全部盗まれ、ベルトは影も形もない。