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すずりとすみ
硯と墨
中谷 宇吉郎
「座右宝」1946(昭和21)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,996 字 · 22 页
墨にももちろん書家用と画家用との区別があって、同じ理由に基づくものである。それで厳密に言えば、墨も硯も共に使用目的によって、良否の標準が異なって来ることになる。
話を簡単にするために、墨色についてだけ考えてみる。青墨のあの透きとおるような美しい青みは何から来るものであろう。何かの青い色素が混ぜてあるものならば、その色素だけ絵の外側へにじみ出るはずであるから、やはりあの青みは炭素粒から来る色であろう。そうすると松煙の煤の性質と一応考えてみるのが自然である。油煙墨の材料たる桐油の煤も、松煙で作った煤も、炭素であるという点では同じことである。しかし炭素という元素は、非常な曲者であって、金剛石にもなれば、石墨にもなり、普通の無定形な木炭のような炭にもなる。どれも炭素と他の元素との化合物ではなく、純粋な炭素だけで、このように変化するのである。砂糖を焼いて純粋な炭素の粉を作り、それを高温高圧にするとダイヤモンドに変るというのが、有名なモアッサンの実験である。もっともこの場合大部分の炭素は石墨に変るので、ダイヤモンドの方は、極く小さいのが少し出来るだけである。