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しゃかいじひょう
社会時評
戸坂 潤
「文藝春秋」1933(昭和8年)年6月~1937(昭和12)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,408 字 · 380 页
社会は変なもので、ルンペンが林檎を一つ盗んだということは、ただ一つの林檎もルンペンにとって重大な意義があるという処からいつの間にか、その犯罪自身が重大なものに見做されるということになるのであるが、之に反してブルジョアのヒステリーマダムがお召を一反万引しても、一反位いのお召はマダム自身にとっては実はどうでも好かったという処から、その万引自身も亦精々笑い咄しになって了う、ということも出来るようだ。五輪の塔は教授の病的昂奮を外にしては、冷静に見れば彼の社会生活にとって真剣な意義のあるものでないので、教授自身之を大して悪いことだとは思わなかったのかも知れない。
処が翌日の新聞を見ると、教授のやったことは単に窃盗だけではなく、古墳の発掘という犯罪にも該当するらしい。墳墓発掘罪とかいうものが適用されそうなのである。それは墓石を発掘している時に計らずも白骨が出て来たということからだそうである。こうなるとこの犯罪に対する興味は、もはや教授窃盗事件の興味ではなくて、墓墳発掘、古墳発掘、従って又史跡蹂躙、という事件の興味に変って来る。
単に教授が泥棒したというだけでは、珍らしくてセンセーショナルだというだけで、社会の何か一定の集団にとって特別の利害があるわけではないから、別に輿論もやかましくならないが、史跡蹂躙というレッテル