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しゃかいじひょう

社会時評

戸坂 潤

「文藝春秋」1933(昭和8年)年6月~1937(昭和12)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,408 字 · 380 页

青空文庫

するとそこで自分のブロマイドやハチ公煎餅やハチ公チョコレートというものを売っているのに出会した。処が今日は子供達までがハチ公などに見向きもしないで、このハチ公煎餅やハチ公チョコレートに気を取られている。

ハチ公は自分が何か魂を搾取される手術でも受けたように、自分と自分の持っている意味とが、メリメリと引き離されるような身慄いを全身に感じた。すると夫と一緒に、例の主人のお伴をした時以来の、渋谷駅に足が向くという、どうしても癒らなかった奴隷的な陋習が、一遍に身体から抜き取られたような気がし出した。彼は渋谷駅など、満腹の時に御馳走の相談を受けた時のように、バカバカしい存在であることを発見したのである。

後で判ったことによると、ハチ公が弥次馬だと思った大人達は、文部省や外務省や、又鉄道省やのお役人達だったということだ。鉄道省のお役人は駅のホームでハチ公の銅像の除幕式を挙げるのだからやって来たのだし、外務省のお役人は除幕式の光景をトーキーにして外国人に拝ませてやるために来たのだそうだ。文部省のお役人は恐らく、ハチ公の銅像がどの位い忠義な形をしているかを調査に来たのだろう。