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しゃちょうひしょ

社長秘書

佐々木 邦

「面白倶楽部」大日本雄辯會講談社、1926(大正15)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,738 字 · 14 页

青空文庫

雑談の余裕のある人ほど待遇が好い。但しゴルフをやりに行っても公爵に株を持たせることを考えているのだから、社長と雖も心に閑はない。重役の星野さんや塚本さんにしても時折夜分眠られないと言っている。矢張り相応に頭を使っているのだ。課長連中に至っては上と下に挾って真剣に忙しい。皆それ/″\屈託があるのだから、社長の御高説ばかり拝聴していると事務の渋滞を来す。そこで重役も課長も成るべくかゝり合わないようにしている。尤も課長連中は別室だから、来なければ捉まりっこない。

「や、や、や」

と或日社長は新聞を見ながら声を揚げた。相手が黙りこくっていると斯ういう手を用いるのである。

「某実業家夫人が運転手と駈落ちをした。誰だろうな?」

と聞えよがしに呟いたのは新聞種を直接に話題にする積りだった。

「そんなことが出ていましたね」

と塚本さんが机から頭を擡げた。

「運転手との駈落ちについてはアメリカで面白い話を聞いて来たよ」

と社長は眼鏡を外した。

「はゝあ」

と塚本さんは仕方なしに言ってしまった。

「彼方の大銀行の頭取が医者に勧められて三ヵ月間絶対休養の為めに、単独で海岸へ転地したんだそうだ。