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そぼのために

祖母のために

宮本 百合子

「文芸春秋」1925(大正14)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,632 字 · 16 页

青空文庫

ただ、丹精な、いつも仕事をしていた御隠居という印象が、大した情も伴わずあるだけなのだ。

二日目の通夜が、徐々朝になりかけて来ると、私は今日限りの別れが云いようなく惜まれて来た。早朝の寒い空気の中で御蝋燭を代え、暫く棺を見守り、父の処へ行った。私は疲れていたので、桐ケ谷には行かない予定に成っていたのだ。私は父に自分も先方まで送りたい願いを伝えた。願いは叶い、私は父と二人きりで祖母を最後の場所まで送った。棺は恐ろしく手早に火葬竈に入れられ、鉄扉が閉った。帰りの自動車の中で、涙が流れて仕方なかった。私はすぐくっついて腰かけている父に気づかれまいとして、そろそろ灯のつき始めた街路の方に顔を向け、涙を拭きもせず黙っていた。父は、少し来てから、親切に、

「寒くはないかい」

と訊き、膝かけの工合をなおしてくれた。父の声もうるんでいる。そしてやはり窓の外ばかり見ている。やがて、明に私の気を引立たせる積りで、彼は、飛び過て行く道路の上で目についた些細なことを捕えて活溌に喋り出した。間に軽い諧謔さえ混ぜる。おどけながら、父は頻りに手巾を出して鼻をかんだ。その度に、やっと笑っている私は、幾度か歔り上げて泣き出しそうに成った。