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そぼのために

祖母のために

宮本 百合子

「文芸春秋」1925(大正14)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,632 字 · 16 页

青空文庫

「近頃ははあ眼も見えなくなって、糸を通すに縫うほどもかかるごんだ。ちっとは役に立ちたいと思って来たが、おれもはあこうなっては仕様がない。――今年はあぶない。安積で死ねば改葬だ何だと無駄な費をかけないですむから、おりゃあ……」

「いやなお祖母様!」

私が無遠慮に、祖母の言葉を遮るのが常であった。

「そんなことをおっしゃると、みんな心持がわるくなってよ。ただおりゃあ安積へ行きたくなったごんだとおっしゃいよ。――そうでしょう? 私も行っても悪くないごんだから、ついて行って上げるわ。それでいいでしょう?」

祖母は、いいともわるいとも云わず、暫く黙り、また云う。

「百姓どもははあ、一寸でもよけい畑作ろうと思ってからに、桐の根まで掘り返すごんだうわ、それでいて芽を一本かいてくれない。それも心配だし、御不動様へつぶも上げなきゃあなるめえし」

憐れな祖母は、これぞという用事もなしに、田舎へ往復してはいけないと感じているらしかった。彼女の癖がのみこめないうち、よくこの陰気っぽい話の切り出しかたで、皆が滅入った。父や母は特に感情上複雑な理由でも潜んでいるのではないかと案じたらしい。