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そぼのために

祖母のために

宮本 百合子

「文芸春秋」1925(大正14)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,632 字 · 16 页

青空文庫

と云った。御祖母様という言葉に暗示される威厳、構えというようなものが、自然とれていたものと見える。そのとき祖母は、賑やかに揃っている連中を見渡しながら、巾着を何処へやったか判らなくなって困る困るとこぼした。

数日後の或る朝のことであった。電話が掛って来た。私は友達の家にいた。電話口に出て見ると、母の声で、祖母が四五日前から腸をこわし、昨夕から看護婦をつけている。見舞いに来るように、ということだった。――電話を切りながら、安心のような不安心なような不確な心持になった。母自身もどの程度まで大事に考えてよいのか見当のつかない口ぶりであった。私は、途中で平常祖母の好きな謡曲のレコードを買って行った。

祖母は、几帳面なたちであったから、隠居所はいつもきちんと片づき、八畳の部屋も広々としていた。祖母は、そこに寝ているのだが、派手な夜具の色彩や看護婦や枕元の小机などで、部屋は狭く活気満ちて見える。私は美しいオレンジ色の毛布から出ている祖母の顔付を見ると、例え四五日でも知らずにいたのをすまなく感じた。祖母は想像して来たより遙に衰えていた。入れ歯をとっているせいもあったろう。