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しゅくはい
祝盃
菊池 寛
「電氣と文藝」1920(大正9)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,843 字 · 6 页
幾年振りかに上京した青木には、いろ/\な感慨が、胸の中にこみ上げているのかも知れなかった。が、啓吉は青木を送った後で、久野と二人で、青木のことについて、話して見たいという要求が、かなり強く感じられた。が、青木は自分一人だけ、別れて帰りそうには見えなかった。
「君は、この電車に乗ったら、乗換がないのだろう。」
啓吉は、悪いと思ったが、つい/\口が滑ってしまった。青木はやっと帰るのを決心したように、
「そうだ! じゃ失敬しようかな。」と、いったまゝ、さすがに、しんみりと、
「もう会わないかも知れないよ。明日中に立つ筈だから。」と、いった。
その小柄な身体を、聳やかして、電車に乗る後姿を見ていると、啓吉の心にも、旧友に対する純な感情が、こみ上げて来るのだった。
青木を見送ってしまうと、久野も啓吉も、解放されたようにホッとした。久野は今迄とは別人のような軽い口調でいった。
「おい! ソーダ水でも飲もうじゃないか。」
「うむ飲もう。」
啓吉も、久野の気持が分った。二人とも青木についての感慨を話して見たかったのだ。
つい近くのカフェーの卓に向うと、久野はウェイトレスが持って来たソーダ水を、お役目のように、すゝりながらいった。