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かみのごとくよわし
神の如く弱し
菊池 寛
「中央公論」1920(大正9)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,929 字 · 28 页
物を、整え初めて、身分不相応ではないかと思われるほど、立派な洋服と外套とを、新調して居たし、雄吉の考では、借金こそあれ、余分の金は一文もないようにさえ思われた。殊に河野が倒れて居る以上、月末に入る原稿料などは、一文も入って来る筈はないのである。
雄吉は、友達同士で醵金して、せめて百円か二百円かの纒った金を、河野の為に蒐めてやろうと思った。が、実際その積で、蒐めかけて見ると、雄吉ほど気乗りのしない友達を見出したり、友達の中に河野同様悪性感冒にかゝる人が出来たりして、思ったほど手軽に纒りそうもなかった。
それで、到頭その方は思い切って、先輩や友達仲間の傑作選集を出版して、その印税を河野に贈ることにした。その方法は、誰にも大して迷惑をかけることなくして、纒った金を作り得る簡易な方法であった。自分の古い作品の中から、著作集にも入れてしまったものゝ中から、選集のために、一篇を割くと云ったことは作家に取っては、たゞ一寸した好意だけで出来る事だったから。
河野の病気は、危篤と云っても、いゝ位な重態のまゝで、四五日の間持ち合って居た。医者は、弱い心臓を保護するためのあらゆる手段を尽くして居るらしかった。