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かみのごとくよわし

神の如く弱し

菊池 寛

「中央公論」1920(大正9)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,929 字 · 28 页

青空文庫

「君はそう憤慨するけれども、先方はそう悪意でやった事じゃないよ。」と、云って、遉に、自分自身の弱さを恥じるようであった。が、その顔には、ある感激さえ認められた。

雄吉は、自分が壁だと思って突き当って行ったものが、ヘナ/\と崩れてしまったような拍子抜けを感じて、暫くは茫然として河野の顔を、見詰めて居た。そして心の裡では、急に方角を見失った男のように、ボンヤリとしてしまった。

雄吉が、若し河野であったならば、どんなに憤慨したかも知れないような侮辱を、河野は憤慨どころか、ある感激を以て、受け入れて居る。河野自身が『怪しからない事だ』と云うて、憤慨するところを、第三者の雄吉が、マアマアと云って和めるべき筈のものが、丸切りその反対になって居る。雄吉が、考えれば、可なり重大な侮辱だと思うことを、河野はそうは思わない。相手の行為に潜んで居るかも知れない悪意などは、全く無視してしまって、善意だけを出来るだけ汲もうとする。あれほどS家に対して恨みを懐いて居るような事を云いながら一寸S家から好意――それも、あゝした関係に於ては侮辱と思われる――を示されると、平生の意地も恨みも忘れて、先方の好意だけを感ずる。