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かみだな

神棚

豊島 与志雄

「新潮」1923(大正12)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,427 字 · 44 页

青空文庫

その上彼女は、一寸昔の可愛さを思い出させるような、上唇を脹らませる薄ら笑いを浮べていたので、俺も曖昧な笑顔をしてやった。けれど彼女の言葉を、池部は聞きとがめていた。

「何だい、その調えるとか調えないとかいうのは……。まさか、柄にもねえ仲人口を利いてるっていうんでもあるまいし……。」

「なあに、実は金の工面さ。」

「ああなるほど。」そして彼は如何にも腑に落ちたという顔付をした。「実は俺も少しいるんで心当りを探ってみたんだが、世間は不景気だね。」

「全くだ、世間は不景気だ。」

そして俺達は笑い出してしまった。この場合、世間は不景気だということが、すっかり気に入って嬉しくなったのだった。

酒の燗が出来て、※が裂かれて、杯を重ねてるうちに、池部は俄に改った調子で尋ねかけてきた。

「時に君の職の方はどうなったい?」

「ああどうにか、深田印刷の方にきまったんだがね、年内はもういくらもねえし、正月は初めのうち休みだてえんで、正月の十五日頃から出てくれと云うんだ。貯金があるじゃあなし、それまでの無駄食いに弱ってるんだ。」

「なあに、そいつあ先が安全だからいいじゃねえか。俺なんか、歳暮の臨時雇だから、お先真暗で、心細いったらねえよ。