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かみだな
神棚
豊島 与志雄
「新潮」1923(大正12)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,427 字 · 44 页
俺がいくら云い聞かせたって、母のことが頭の底に絡みついてる彼女には、少しの利目もなかった。俺が云い逆えば逆うほど、彼女は益々強情になっていった。神棚に灯明をつけ榊や水や飯を供え、母と同じように祈りを上げ初めた。一つには、腑甲斐ない俺を励ますつもりもあったろうし、俺に対する面当もあったろうが、その狂言に自分から引っかかっていった。もう立派な病気で、時々その発作を起した。本当に信じてるのではなくて、平素は可なり冷淡だっただけに、猶更仕事が悪かった。
「こいつあ少し手酷しいや。母の生きたお化だ!」
そんな風に俺は考えることもあった。然し冗談ぬきにして、実はだいぶ気にかかった。どうにかしてやらなければいけないと思った。一寸可哀そうな気もした。だが、今にどかっとまとまった金がはいれば、その病気もなおるかも知れない。サンタクロースの爺さんでも、金袋を背負ってやって来ないものかなあ……。
俺はそんなことを空想しながら、褞袍にくるまって仰向に寝そべっていた。実は池部と飲んだ酒が変に空っ腹に廻ってだいぶ酔ってるらしかった。木目も分らないほど煤けた天井板が、一枚一枚くっきりとなって、波にでも浮いてるように、ゆらりゆらりと動き出していた。