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かみだな

神棚

豊島 与志雄

「新潮」1923(大正12)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,427 字 · 44 页

青空文庫

「今君の家へ行った所だぜ。」と池部が云った。

「そうか。」と俺は答えた。

「丁度よくぶつかってよかった。だが、いくら呼んでも返辞をしねえなあ酷えよ。」

「そうだったのか。」と俺は云った。

「一体朝から何処を歩き廻ってたんだ。」

「何処って当はねえから、ただ歩いてたんだ。」

「ただ歩くって奴があるもんか。」

「歩きでもしなけりゃ仕方ねえからな。」

「そいつあ面白えや。」と谷山は云って、往来の真中で笑い出した。

大きな図体を揺ってせり上ぐるその笑い声を聞くと、俺は愉快になってきた。

「どっかで一杯やらねえか。」と俺は云い出した。「ただ俺は一文もねえが、君達少しは持ってるだろう。」

「うむ、よかろう。」

そして三人で、近くの小さな酒場にはいっていった。

池部は妙に俺の方をじろじろ窺っていた。俺は一寸気に障った。その俺の顔色を察してか、彼はこう尋ねかけてきた。

「君、金の工面はついたのか。」

「つかねえよ。」

「じゃあ一体どうするつもりだい。」

「どうもこうもねえさ。正月は向うからやってくらあね。」

その時突然に谷山が、本当に困るならどうにかしてやろうと云い出した。沢山は出来ないが四五十のことなら何とかなるかも知れないと……。