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かぐらざか

神楽坂

矢田 津世子

「人民文庫」1936(昭和11)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,611 字 · 40 页

青空文庫

永い間の栄養不足と過労が祟って内儀さんの肺疾が今ではずい分と悪い方である。医者は病人を起してくれるな、という。賄の方をみてくれるものがいないので不自由をする。桂庵から女中を雇ったのでは高くつくと思った爺さんはつてを頼って孤児院から種をつれてきた。はなのうちはそれでも僅かばかりの給金をやっていたが、そのうち種の方でこれを辞退するようになった。生れつき足の悪い種はこれをひけ目に思う気もちがあって、存分に立ち働きの出来ぬ身を主人夫婦にすまないと思うている。この気心が爺さんには呑みこめている。そして、急ぎの用事などで種が不自由な足をひきずり出すと「そうそう、お前は足が悪かったっけな、どれ、俺がひとっぱしり行ってこう!」

と云うて、用事を自分で足してしまうことが度々である。種はこう云われることで自分のひけ目さを一そう強く感じる。このすまなさを何かで償いたいとの心がけから内儀さんの賃仕事を手伝ったり、内職の袋貼りなどで得た稼ぎ高を自分の食い扶持の足し前にしてくれるように、と爺さんの手へそっくり渡しているのだった。

時折り、竹鋏を持ち出した爺さんに塵芥箱の中をかきまわされて大根の尻っぽだの出し昆布の出殻をつまみあげられては、