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かぐらざか
神楽坂
矢田 津世子
「人民文庫」1936(昭和11)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,611 字 · 40 页
金壺眼のお人は慾ばりの性わるですってね。院長さんがそう仰言ってでした。孤児院にも勘坊っていう金壺眼の子がいましてね、それあ慾ばりだった。どんなに私御膳を盗まれたかしれないもの」
「御膳を盗むのかえ?」
「はあ、ひとりずつお茶碗へ貰ってきて、それをテーブルの上へ置いてこんどお汁を貰いにいって帰ってくると、もう勘坊が食べてしまって無いんです。金壺眼の子ってほんとうに性わるですねえ。でも、こちらの旦那様がお身内なんですもの、御養子にお貰いになるのでしよう?」
「それがねえ、うちは口でばかり山吹町は御免だ、って云うてなさるけど、肚ではもう決めていなさるかもしれないのだよ。山吹町のを貰うくらいなら種を養女にしたいのだがねえ」
こう云うて内儀さんは思案にくれる。種を養女にしたい、などと口では云うても内儀さんの心はこのことにてんで無頓着である。内儀さんが思い悩んでいるのは、安さんの次男坊か従弟の倅かである。種に云われてみれば、どうも金壺眼の太七を貰う気もしないので、やはり思いは代書屋の倅の方へ走るのである。早く養子を決めておかないことには自分の死んだあとへお初にでも乗りこまれて、この家を我がもの顔にされたのでは間尺にあわない。