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かんだをさんぽして
神田を散歩して
寺田 寅彦
「解放」1922(大正11)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,623 字 · 10 页
しかし今日の「宣伝」という言葉には、まさにそれとは反対な余味があり残味がある。最も平和的なのでも楽隊入りの行列や、旗を立てた自動車や往来人の鼻の先にさしつけられる印刷物や、そういう種類のものがいつでも連想される。もっと穏やかでないものならいくらでもあることは言うまでもない。今日のような世の中ではこういう方法を取るよりほかにしかたがないというところから、自然に流行するようになったものと思われる。ああいう方法によれば少なくも一時的の効果はある程度まで得られるに相違ない。多くの場合にまた宣伝の目的がほんの一時的のものであるとすれば、それで結構なわけであるかもしれない。甲の宣伝の効果が花火のように輝いて消えるころに乙の宣伝が砲声のようにとどろいて来る。そうして一つのものの余響はやがて次の声の中に没し、そういう事が順次に引き続いていつまでも繰り返される。それがちょうどたとえば仕掛け花火か広告塔のイルミネーションでも見るような気がしてならないのである。つまり身にしみるような宣伝はわりに少ない。
善い事だから宣伝しなければならないという強い信念の下にすべての宣伝は行なわるべきものであろう。