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しんけい
神経
織田 作之助
「文明 春季号」1946(昭和21)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,754 字 · 28 页
と言うと、参ちゃんは口をとがらせて、
「そんなことおますかいな。今に見てとくなはれ。また本屋の店を出しまっさかい、うちで買うとくなはれ。わては一生本屋をやめしめへんぜ」
と、言った。
「どこでやるの」
と、きくと、参ちゃんは判ってまっしゃないかと言わんばかしに、
「南でやりま。南でやりま」
と、即座に答えた。南というのは、大阪の人がよく「南へ行く」というその南のことで、心斎橋筋、戎橋筋、道頓堀、千日前界隈をひっくるめていう。
その南が一夜のうちに焼失してしまったことで、「亡びしものはなつかしきかな」という若山牧水流の感傷に陥っていた私は、「花屋」の主人や参ちゃんの千日前への執着がうれしかったので、丁度ある週刊雑誌からたのまれていた「起ち上る大阪」という題の文章の中でこの二人のことを書いた。しかし、大阪が焦土の中から果して復興出来るかどうか、「花屋」の主人と参ちゃんが「起ち上る大阪」の中で書ける唯一の材料かと思うと、何だか心細い気がして、「起ち上る大阪」などという大袈裟な題が空念仏みたいに思われてならなかった。
ところが、一月ばかりたったある日、難波で南海電車を降りて、戎橋筋を真っ直ぐ北へ歩いて行くと、戎橋の停留所へ出るまでの右側の、焼け残った標札屋の片店が本屋になっていて、参ちゃんの顔が見えた。