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しんけい

神経

織田 作之助

「文明 春季号」1946(昭和21)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,754 字 · 28 页

青空文庫

焼けた大阪劇場も内部を修理して、もう元通りの映画とレヴュが掛っていた。常盤座ももう焼けた小屋とは見えず、元の姿にかえって吉本の興行が掛っていた。

その常盤座の前まで、正月の千日前らしい雑閙に押されて来ると、またもや呼び停められた。

見れば、常盤座の向いのバラックから「千日堂」のお内儀さんがゲラゲラ笑いながら私を招いているのだった。

「やア、あんたとこも……」

帰って来たのかとはいって行くと、

「素通りする人がおますかいな。あんたはノッポやさかい、すぐ見つかる」

首だけ人ごみの中から飛び出ているからと、「千日堂」のお内儀さんは昔から笑い上戸だった。

「あはは……。ぜんざい屋になったね」

「一杯五円、甘おまっせ。食べて行っとくれやす」

「よっしゃ」

「どないだ、おいしおますか。よそと較べてどないだ? 一杯五円で値打おますか」

「ある。甘いよ」

しかし砂糖の味ではなかった。そのことをいうと、

「ズルチンつこてまんねン。五円で砂糖つこたら引き合えまへん。こんなちっちゃな餅でも一個八十銭つきまっさかいな。小豆も百二十円になりました」

京都の闇市場では一杯十円であった。

「あんたとこは昔から五割安だからね」