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まつりのよる

祭りの夜

豊島 与志雄

「日本小説」1948(昭和23)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,781 字 · 20 页

青空文庫

「傾国の美人てのも、いるそうですね。」

「傾国の美人……。」

繰り返して、杯を挙げるより外はない。ぐっと飲み干すと、それに誘われたように、遠い太鼓の音が耳に伝わってくる。屋台の踊りなどまだ続けられているらしい。

三月とはいえ、まだ大気は冷々しているのに、町では祭礼なのだ。神社のお祭りでもあり、復興のお祭りでもあり、敗戦のお祭りでもあるらしい。軒に提灯を出してる家はちらりほらりだが、桃や藤の造花は殆んど軒並にさげられている。神社の裏庭には、小さなサーカスの一団がジンタの囃を響かせており、大通りには、樽御輿がかつぎまわされ、お稚児姿の子供達がその後に続く。四辻や広場には、高い屋台が組み立てられて、演芸会が催され、音頭踊りがなされる。然しその全体の雰囲気はへんにちぐはぐで、気勢が揚がらず、裏町が目立って淋しい。橋のたもとで、浮浪児めいた子供が四五人、飴をしゃぶりながらメンコを闘わせているのを、赤い鉢巻をした祭礼着の子供達が、指をくわえて眺めていた。夕陽の流れてる上空には鳶がたくさん舞っていた。――私は町を少しぶらついて、それからカストリをひっかけて、家に帰り、※に焼酎でがまんしながら、毛布の中に寝そべって書物を読んだ。