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わたしのしんじょう

私の信条

牧野 富太郎

「世界」岩波書店、1953(昭和28)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,058 字 · 5 页

青空文庫

これは狂人の言かも知れないが、もしあればやってみるがよい、果して匹敵が出来るかどうか、いつでも御手際を拝見しよう。

私の残念でたまらないことはこの仕事が続かなかったことだ。この私の深い信条の仕事が頓挫したことだ。これは日本の文化のためにこの上もない惜しいことだが、しかしとにかく四冊だけ出来た。嘘と思えばどなたでも右の四冊を御覧になって下さい。そうすれば私が虚言を吐いているか妄言を弄しているかがよく分るであろう。

私のやりたいと思ったこの大きな信条のその実行が、右のように挫折したことは、日本のためにもまた私のためにも甚だ惜しい。これを思うと涙がにじんで来る。私が今もっと若ければ復たび万難を排して仕事にかかるけれど、なにを言え少し年を取り過ぎた。イヤ八十九歳でも強いてやれば出来んことはない自信はあれど、他に研究せねばならぬ事項がたくさんあるから、この一事に安んじてそれを遂行する時間を持たない。ただ私のせめてもの思い出は、右植物志は私の記念碑を建てたようなものであると自分で自分を慰めている次第だ。希くは将来右の植物志と同様、いな、それ以上の立派な仕事が出来る人が日本に生れ出て、その誇りとする出来栄えを世界万国に示されんことを庶幾する次第だ。