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わたしはいんきょではない

私は隠居ではない

吉田 茂

「文藝春秋」文藝春秋新社、1962(昭和37)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,313 字 · 13 页

青空文庫

呵々。

あなた方は、毎月毎月、来月は誰に頼もうかってことをやってるわけですか。それが、商売とはいえ、御苦労なこったな。私があなた方のような立場になったとしたら、とても本は出来ませんね。ナニ? 誰々、あれはつまらん奴だ。では誰々、あんなバカに何が書ける。誰々? あれあ、書かなくったって云うことは判ってる、って具合で、頼む相手が無くなっちまうと思うんだが、そうはなりませんかね。よく毎月頼む人があるもんですね。

元の首相と会って話をしないかというんですか? そんな暇はありませんよ、首相なんて大体バカな奴がやるもんですよ。首相に就任するや否や、新聞雑誌なんかの悪口が始まって、何かといえば、悪口ばかりですからね、この世にこんな大バカはないように書かれますよ。あなたんところだってそうでしょう。そんなバカばかり集まって話をしたって面白かろうはずがないじゃありませんか。

元首相というと、誰がいるのかな……、ああ、東久邇さん、あの方の内閣に私は初めて外務大臣として起用されたんで恩誼があるんですがね。あの方は大正の後半、ヨーロッパに来ておられてね、私もイギリスにいた頃で、侍従武官の溝口伯爵が私と縁続きでもあり、前から懇意にしていたもんだから、チョイチョイお眼にかかることがありましたがね、なかなか聡明で直感力も確かだし、お考え