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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 页

青空文庫

「こないだの話の続きをしておくれよ。よう、よう」

「もう日が暮れる」

「よう。ようッてば」

「ごらん。雪か雨になりそうだよ。みんな早く家へお帰り。兼好さんも、お腹が減ってる」

幸いなことに――そのとき彼のそばをすれちがった半蓑に旅笠の男が、ふと、

「おや、吉田山の卜部兼好さまは、あなた様でいらっしゃいますか」

と、小戻りに腰をかがめて来た。

「は、兼好は私ですが」

「それは、それは。いや、よい所で」

「おまえさんは」

「伊賀の飛脚でございまする。こんな道ばたでお手渡しもいかがと思いますが」

と、腰へ廻した包みの内から一札の手紙を抜いて、それに矢立の筆を添え、

「おそれいりますが、一つこの帳面にお受判を」

と、さし出した。

「はてね、伊賀の誰から?」

「小馬田の殿のお託し。ごらん下さればお分りのはずで」

「お。……」

封には、服部治郎左衛門元成、妻卯木と、二つの名がならべてあった。

兼好は、旅さきの初瀬で会った扇売りの夫婦と、その夜の蛍を瞼にうかべた。

「では、おまえさまは、この御夫婦のお知りあいか」

「いえいえ、小馬田のご領内に住むただの使い屋にすぎません。ほかにも御用をおびて、あちこち駈けずり廻っている者。