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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 页

青空文庫

などという声すら巷をくぐっているほどだった。

「……はて、そんな中で、陣屋の態なら知らぬこと、こんな私邸めかした華奢を飾って、はばからぬのは何者なのか」

彼の怪しみは、やがて解けた。まもなく、たったひとりズカズカと入って来て、

「やあ」

と、設けの上席に、あぐらを組んだ人がある。

つやつやしい入道あたまながら、鎧を外した腹巻だけの華美な武将いでたちで、こがね作りの太刀を横におき、

「おどろいたか、法師」

と、いった。

近江の佐々木道誉である。

兼好のまごつき顔を興がッて、しきりに笑い抜くのであった。

「ア。これは」

兼好は正直に驚いてみせた。佐々木殿の京屋敷は、たしか以前から梅小路であったはず、思いつくはずもありません、と言った。

それからまた、どうしてこの兼好の災難をご存知あって、お助けの迎えを賜わったのでしょう? と呆れ顔に首をかしげると、

「知らいでか」

道誉は、兼好の迂かつさを、また笑って、

「おととい御僧が途中で出会うた六角時信は身の同族、すぐ彼より聞いた。で急に、久しく見ぬすね法師の姿を思い出し、長崎殿へ貰い下げの使いをやったわけよ。……まあ数日は、ゆるりとここにいるがよい」