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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
吉川英治『私本太平記(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 页
後醍醐は、み車の中で、
「誰ぞ」
と、おたずねだったが、
「尊良、おあとより、追っつきまいらせましてござりまする」
という聞き覚えのある御子の声には、よほどうれしかったのであろう、
「お、尊良なりしか。時にとって、百万の味方」
と、仰っしゃった。
宮が追いつかれた所は、七条か九条あたりか、とにかく六波羅は突破できないから、竹田街道を迂回して、木幡へ出たものにちがいない。
が、どう急いでも、牛車はしょせん牛車である。かつは暗夜の田舎道にも、行きなやんだことであろう。「古典」によれば、途中、牛車はすてて怪しげな張輿に召し換えられたとある。
かつまた、駕輿丁の雑人をつれていたわけでもないので、そのおん輿は、大膳ノ大夫重康、楽人の豊原兼秋、随身の秦久武などが、馴れぬ肩に、舁きまいらせたとのことであるから、途上の難行苦行のていも、察するに余りありといっていい。
かくて、夜の白々明けに、
「……ここは、どこ」
と、見まわし給えば、奈良街道の木幡口、六地蔵の辺りであった。「――やれうれし、まずは事なく、都の外へ脱したるわ」と、名知らぬ小社の森蔭へおん輿をおろして、しばしお憩いの玉座となし、楽師兼秋が、わびたる禰宜の家へ行って、