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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 页

青空文庫

そして、天皇以下、

「――事成り難し」

「ここも、安からねば」

と、即夜、ほかへ行在所を求めて、奈良を立ち出でて行ったことか。あわただしさのほど言いようもない。

ひとまず……と、さして出たのは、甲賀ざかいの和束ノ里、鷲峯山金胎寺だった。

月もなし、わざと、松明もともさない。おそらくおどろな秋の山風は、御輿の簾も吹きちぎって、お肌に粟を生ぜしめていたことだろう。――ただ少々供の人数はふえていた。

供奉の公卿雑人のほか、聖尋僧正もこの夜は武装し、薬師院、正法院の僧兵二百余人。行く行く、土地の郷士僧人なども、ちらほら、列に参加していたという。

しかし「元弘日記」によれば、この夜の暗夜行も御無事ではなく、待ち伏せた兇徒との間に小戦闘も行われたとあるから、為に、天皇の御輿にも、外れ矢、狙い矢などの二、三は突き刺さったのではあるまいか。

もとよりお覚悟のこと、それに動じる後醍醐ではなかった。むしろ、これから世のあらゆるものに出会う一歩の門の物試しとうけて、いよいよ生来の荒胆を、御輿のうちに、すえておられたかもしれない。

こうして、翌二十七日は、金胎寺へ入られたが、