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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 页

青空文庫

ゆるやかな動きにすぎない。

その間の小半日。天王寺の金堂では、大般若経の転読がながれていた。この日、正成は先ごろの戦勝のお礼に、二頭の神馬と、白覆輪の太刀などを寺中へ納めていたのである。

「兄上、いつでも」

「正季か。みな揃ったか」

「は。ほとんど」

正季と共に、正成は六時堂の方へ歩いた。将士二千、見わたす限りの地に、あぐらして、敷波に坐っていた。

「……わしは声が低い」

つぶやいて、正成は横を見、

「俊秀、わしに代って、今朝のことを、そちから全軍の者に話してくれまいか」

命じられたのは、中院ノ雑掌俊秀である。

「かしこまりました」

正成の手から、うやうやしく折奉書を受け、広場の真ん中へ行って立った。

「みな聞くがいい」

そこからである。俊秀の声は、端々の兵にまでよく通る。

「今朝のご参詣のあと、わがお館には、ふしぎな奇瑞にお会いなされた。あまりのありがたさゆえ、それを皆へも告げ知らせる。まずは次の一文を聞け」

俊秀は、奉書を披いた。

「――人皇九十五代ノ世ニ当ツテ、天下一トタビ乱レテ、主モ安カラズ。コノ時、東魚来ツテ、四海ヲ呑ミ、日ノ西天ニ没スルコト三百七十余日、西鳥来ツテ、東魚ヲ食ラフ。