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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
吉川英治『私本太平記(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 页
あくる朝のこと。
上ノ堂の行宮は、ご寝所も、常の陣座の間も、まことに手ぜまな所だったが、そこへ御出座あるやいな、尊良、宗良の二皇子へたいして、
「昨夜は、奇異な夢を見たわえ。……日ごろ、めったに夢などは見ぬわが身だが」
と、おっしゃった。
「え、奇異なお夢とは、どんなお夢を?」
尊良親王は、興がった。父ぎみの今朝のお顔から見て、吉瑞のように思われたらしい。――はや出御とあって、仮屋のうちの公卿たちも、あらまし姿を揃えていた。
「吉か凶か」
天皇は独りいわれた。
やがて、玉音しずかに、
「たれぞ、夢占を立ててみい。その夢とは……」
と、次には一同へ向って、ゆうべの夢の“夢ものがたり”を話しだされたのであった。
――そこは、どこか。
夢の中なので、さだかでない。
いちめんな敷き砂は、春の浦波のような箒目を描いている。
はて、見たような所と思って見まわすと、紫宸殿の広庭にちがいない。けれど「右近ノ橘」「左近ノ桜」は見あたらず、そこには一本の大きな常磐木だけがそびえていた。
その木は、何の木やら?
薫々と、えならぬ香気を放ッている。
さらに仰ぐと、葉はみな、南へよく茂り、わけて勢いのいい南枝の一つは、中天の龍みたいであった。