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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 页

青空文庫

そも、何事でございましょうか。ごらんのような、名もなき、田舎武門のあるじなどへ」

藤房もまた、あらたまって。きっと姿をただした。

「勅です。――つつしんで、うけたまわられい」

「は」

「かねがね、主上におかせられては、河内の楠木こそはと、深く頼みとしておわせられた」

「…………」

「しかるに、今もって、笠置への参陣なきゆえ、楠木はいかにせしか、正成はまだ見えざるや、との御下問もいくたびか。……ついに、この藤房をもって、かくは親しゅう、お召のみことのりを降されたもの」

「…………」

「まこと、古今に例もないことです、破格なお沙汰じゃ。ご当家としても、大きな誉れ、武家としては、冥加この上もないお仕合わせではあるまいか。……兵衛(正成)。ありがたくおうけなされい」

「はっ。……お答えつかまつりまする」

正成は、深く額ずいて。

「げにも冥加にあまる御諚、有無なく、おうけ申しあげるべきでございましょうが、元々、さしたる力は持たず能もなき正成。とてもおん頼みにこたえ奉るなどは、思いもおよびません。ひらに御辞退申しあげまする」

「なに」

藤房は、愕と、つい姿を崩して、唇までをわななかせた。