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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(四)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 页

青空文庫

――それらはすでに去年のことに属している。――早くに密契はささげていたが、こうその実現が急とは、長年にも想像しえなかったわけである。

「……奥方、ちょっと加茂の梶岡入道の家まで行ってくるぞ。留守のまに、一族の者から勅使のしさいを訊いておくがよい」

こんな大事をその日にひかえた彼ともみえない。午ごろである。長年は加茂村の一武家屋敷の門を、さも閑人らしく訪ねていた。

梶岡ノ入道永観は、もう隠居の法体だが、長年にも頭の上がらない人だった。長年の亡父の遺言中にも“何事ニ依レ永観ニ談ゼヨ”とあるほどで、いわば一族の長老だが、とかくふだんは敬遠していた門なのである。

よも山の話のすえ、

「世も変りましたな」

長年がそろそろ、談を時勢の昨今へ持ってゆくと、

「変り過ぎるわ」

と、永観は憤慨した。

あさましい事だらけだと、この老人は嘆じてやまない。

老人の論法はすべて今と昔の“比較”に基準をおいている。

また、北条泰時の善政時代や、最明寺時頼の名君ぶりなどが、あたまの髄をなしていて、

「じたい今の天皇家もなっておらんわ。王道がどこにある。利己、栄誉欲、喧嘩、すべて凡下並ではないか」