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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(四)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 页

青空文庫

そして高氏さまの御出兵もこんどはまちがいあるまい。幕府も任命の大将を選りごのみしていられぬだろう」

「されば、次の大将は足利殿であろうと、京でも、もっぱらな下馬評です。いまおはなし申しあげた岩松党の輩もそう観ていました」

「では右馬介、そちはもう都へは引っ返さぬ気か」

「はい。ここにいて、殿の御上洛の途をお待ちするつもりでございますが――」と言って、急に、庭ごしに渡りの廊の彼方へ眼をやりながら、

「藤夜叉さまにはまだ私の帰家を御存知ないようですな」

「ム。まだ告げてない」

「さっそく、あのお方にも、お目にかかり、不知哉丸さまの御無事も拝したいとおもいますが」

「おう、去年のことがあっていらい、人に会うのも厭うておいでだが、おまえが見えたとあればおよろこびだろう。そっと見舞うてあげるがいい」

「では」

と、彼はやがて、老父をのこして、ひとり渡りの廊をすすんで行った。北の遣戸を閉め、南の簾だけを掲げた所にすぐ少年の声が聞かれた。しかしそれは、きイんと癇性をおびた駄々ッ子声で、双六の駒をくずす音と一しょに聞えたのである。右馬介は、藤夜叉の裳の端をチラと見たが、遠慮して、しばらく遠くにひかえていた。