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あきげ

秋毛

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,954 字 · 4 页

青空文庫

彼の女も一度だか私の髪を埋めた事が有った事を思い出すとあんなものの手で埋められたのかと思うと髪の根元がムズムズする様だ。いやらしい。

一体秋になるといつもなら気が落ついて一年中一番冷静な頭になれる時なんだけれ共今年はそうなれない。

大変な損だ。

秋から冬の間に落ついて私の頭は其の他の時よりも余計に種々の事を収獲するんだけれ共今年は少くとも冬になるまで別にこれぞと云う事もしないで居なければならない。

抜毛を見ながらも、変な青っぽい眼を見ながらも、徒に立って行く秋の貴さと健康の有難味を思う。

健康で居て暇無しに仕事をして行けるのが何より幸福だと、仕事をしたくて出来ない今つくづく思う。

わかりきった事の様だけれ共、ほんとうに心からつくづくと思うのは自分がそれをする事の出来ない様な境遇になってからである。

「抜毛」のないものには、毛の抜けない気持よさが分らない――病気を生れて一度も仕た事のないものは達者で生きて居る有難が分らないものだ。