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あきふかき
秋深き
織田 作之助
「大阪文学」1942(昭和17)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,176 字 · 27 页
熱っぽい体臭を感じて、私はびっくりして飛び上った。隣室の女がはいって来たのだった。
「お邪魔やありません?」
襖の傍に突ったったまま、言った。
「はあ、いいえ」
私はきょとんとして坐っていた。
女はいきなり私の前へぺったりと坐った。膝を突かれたように思った。この女は近視だろうか、それとも、距離の感覚がまるでないのだろうかと、なんとなく迷惑していると、
「いま、ちょっと出掛けて行きましたの」
その隙に話しに来た、――そんなことをされては困ると思った。私はむつかしい顔をした。
女はでかい溜息をつき、
「あの男にはほんまに困ってしまいます」
と、言って分厚い唇をぎゅっと歪めた。
「――あの人、なんぞ私のこと言いましたか。どうせ私の悪ぐち言うたことやと思います。それがあの人の癖なんです。誰にでも私の悪ぐちを言うてまわるのんです。なんせ肚の黒い男ですよって、なにを言うか分れしません。けど、あんな男の言うこと信用せんといて下さい。何を言うても良え加減にきいといて下さい」
「いや、誰のいうことも僕は信用しません」
全く、私は女の言うことも男の言うことも、てんで身を入れてきかない覚悟をきめていた。