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あきふかき
秋深き
織田 作之助
「大阪文学」1942(昭和17)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,176 字 · 27 页
「まあ、肝油や思て飲みなはれ。毒みたいなもんはいってまへんよって、安心して飲みなはれ。けっ、けっ、けっ」
男は顔じゅう皺だらけに笑った。
私はその邪気のなさそうな顔を見て、なるほど毒なぞはいっているまいと思った。
そして、眼を閉じて、ぷんと異様な臭いのする盃を唇へもって行き、一息にぐっと流し込んだ。急にふらふらっと眩暈がした咄嗟に、こんな夫婦と隣り合ったとは、なんという因果なことだろうという気持が、情けなく胸へ落ちた。
翌朝、夫婦はその温泉を発った。私は駅まで送って行った。
「へえ、へえ、もう、これぐらい滞在なすったら、ずっと効目はござりやんす」
駅のプラットホームで客引きが男に言っていた。子供のことを言っているのだな、と私は思った。
「そやろか」
男は眼鏡を突きあげながら、言った。そして、売店で買物をしていた女の方に向って、
「糸枝!」
と、名をよんだ。
「はい」
女が来ると、
「もう直き、汽車が来るよって、いまのうち挨拶させて貰い」
「はい」
女はいきなりショールをとって、長ったらしい挨拶を私にした。終ると、男も同じように、糞丁寧な挨拶をした。
私はなにか夫婦の営みの根強さというものをふと感じた。