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あきふかき
秋深き
織田 作之助
「大阪文学」1942(昭和17)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,176 字 · 27 页
私はうつろな気持で寐巻と着かえて、しょんぼり蒲団にもぐりこんだ。とたんに黴くさい匂いがぷんと漂うて、思いがけぬ旅情が胸のなかを走った。
じっと横たわっていると、何か不安定な気がして来た。考えてみると、どうも枕元と襖の間が広すぎるようだった。ふだん枕元に、スタンドや灰皿や紅茶茶碗や書物、原稿用紙などをごてごてと一杯散らかして、本箱や机や火鉢などに取りかこまれた蒲団のなかに寝る癖のある私には、そのがらんとした枕元の感じが、さびしくてならなかった。にわかに孤独が来た。
旅行鞄からポケット鏡を取り出して、顔を覗いた。孤独な時の癖である。舌をだしてみたり、眼をむいてみたり、にきびをつぶしたりしていた。蒲団の中からだらんと首をつきだしたじじむさい恰好で、永いことそうやっていると、ふと異様な影が鏡を横切った。蜘蛛だった。私はぎょっとした自分の顔を見た。そして思わず襖を見た。とたんに蜘蛛はぴたりと停って、襖に落した影を吸いながら、じっと息を凝らしていた。私はしばらく襖から眼をはなさなかった。なんとなく宿帳を想い出した。
いよいよ眠ることにして、灯を消した。そして、じっと眼をつむっていると、カシオペヤ星座が暗がりに泛び上って来た。