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あきかぜ
秋風
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,277 字 · 5 页
て仕舞ったのでその事を思うと眉が一人手に寄って気がイライラして来る。
出掛ける気にもならず、仕たい事は手につかず、気は揉める。
「どうしようかなあ。
馬鹿らしい独言を云って机の上に散らばった原稿紙や古ペンをながめて、誰か人が来て今の此の私の気持を仕末をつけて呉れたらよかろうと思う。
未だお昼前だのに来る人の有ろう筈もなしと思うと昨日大森の家へ行って仕舞ったK子が居て呉れたらと云う気持が一杯になる。
いつ呼んでも来て呉れる心安い、明けっぱなしで居られる友達の有難味を、離れるとしみじみと感じる。
彼の人が来れば仕事の有る時は、一人放って置いて仕事をし、暇な時は寄っかかりっこをしながら他愛もない事を云って一日位座り込んで居る。
あきれば、
「又来ます、気が向いたら。
と云って一人でさっさと帰って行く。
私は、私より二寸位背の高い彼の人が、私の貸した本を腕一杯に抱えて、はじけそうな、銀杏返しを見せて振り向きもしないで、町風に内輪ながら早足に歩いて行く後姿なんかを思いながらフイと番地を聞いて置かなかった、自分の「うかつ」さをもう取り返しのつかない事でもした様に大業に思った。