轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
しゅうふうふき
秋風不帰
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1939(昭和14)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,593 字 · 28 页
お高が火をつけて来た線香の束を、二つの墓前に立てながら、夏雄はそこへ両手を突いた。
「父上、唯今立帰りました、留守中の大変、なんとも、……なんとも残念に存じます、父上が御乱心などと、夏雄には信じられぬ事でございますが、如何なる仔細か、慥かめましたうえで御供を仕ります」
お高の噎び泣く声がした。しかし夏雄は涙を見せず、静かに手桶の水を墓石へそそいだ。
「兄上、御最期に遅れて申訳ありません。夏雄は父上御乱心の始末を糺しましたうえお後を追います。それまで父上のお守りをどうぞ」
合掌して暫くのあいだ瞑目していたが、やがて振返って、
「お高、嘉右衛門の墓はどれだ」
「……あれにございます」
父子の墓からやや右手に離れて、拳ほどの石が置いてある、……夏雄は静かにその前へ移って膝を突いた。
「嘉右衛門や、礼を云うぞ」
初めて、夏雄の眼から涙が溢れ落ちた。初めて嗚咽が唇をついて洩れた。
「……武士たる者がみな逃げ去るなかに、下郎の身で主人の遺骸を拾い、世を忍んでよく三年のあいだ墓を守ってくれた、しかも娘の奇智で自分までが、危地を免れることが出来たのだ。……礼を云う、忝かった」