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ちちぶのみやでんかにじしてやりがたけへ

秩父宮殿下に侍して槍ヶ岳へ

木暮 理太郎

「女性改造」1923(大正12)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,876 字 · 20 页

青空文庫

人夫を除いても四、五十人の一行が押寄せたので、山中の別天地も都会の宿屋と同じような賑さである。温泉宿の主人百瀬君は、漸く落成した許りの新館が殿下の御用に役立つことを非常に喜んでいた。二つの新浴室も一は御用、一は随行者に充てられ、化粧煉瓦に装飾された大きな浴槽は、此山中には珍しいものであった。

槇君と一緒に一風呂浴びて部屋に戻り、御座所に伺候すると、殿下は御浴衣がけで、渡辺さんや竹本さんと明日入用の缶詰類をかれこれとお選分の最中であった。御手伝申上げている中にも明日の天候に就て「どうですか」とお尋がある。県庁の人や記者団からは、明日の御出発時間を問合せて来る。兎に角天気がよければ遅くも午前五時御出発のことに決め、お荷物を造り直して貫目を量り、人夫頭の畠山善作に米味噌其他の必要品と共に、一切の準備を整えさせた。

夕方になってまた雨が激しく降り出した、そして容易に止みそうな景色もない。しかのみならず翌二十五日の午前一時頃になると、東南の風が頗る強く、一陣の突風が谷から吹上げて来る毎に、戸障子が鳴りはためく許りでなく、家までも震動することがある。其中に闇を劈いて電光が閃き始めた。