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ちごほうし
稚子法師
国枝 史郎
「文芸倶楽部」1924(大正13)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,609 字 · 16 页
ところで主人の其振舞いは私を抜かしては誰一人知っている者がござりませぬ所から、卑怯にも私を庭へ連れ出し築山の裾で只一刀に惨殺したのでござります……如何に主人とは申しながらあまりと云えば惨虐非道! 死んでも死に切れず悪霊となって、其主人は申すに及ばず五代つづけて取り殺し今に立至ったのでござりますが……」
五
「然るに……」と亡霊は云いつづけた。「然るに今度計らずも稚子法師様にお目にかかり、何彼とお話しを承わり且は尊いお舞いを拝見致して居ります中、妄執次第に晴れ渡り、今は此世に思い置く事何一つとしてござりませねば今夜を限りに此土地から立ち去るつもりでござります」
斯う云うと小侍は恭しく畳へ頭をすり付けたが途端にすっッと姿は消え、果して其夜を最後として其小侍の亡霊姿は再び屋敷へ現れなかった。
斯ういう事があってから稚子法師阿信の評判は益々江戸に高くなり、訪ねて来る人や招き度い人が、日に日に多くなったのを迷惑に感じたからでもあろうか、突然阿信は身を隠した。全然行衛を眩ませたのであった。
で、彼の噂は人々の口から自然に遠ざかり遂には全く忘られて了った。