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いねのいちにち
稲の一日
中谷 宇吉郎
「世界」1946(昭和21)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,013 字 · 20 页
必要な薬品を適量だけ混じて、化学変化を起すのに最も適した温度及び圧に保ってやると、反応が急速に進行する。それと同じことを、稲の場合にもやらせようということになる。
この場合、稲が米を作るのは、生命の一つの現われである葉緑素の作用によるので、化学変化とは根本的にちがうという議論は一考の余地がある。化学変化の場合にも触媒というものが要ることがある。水素と酸素とを混ぜておいても爆発はしない。即ち反応は起らない。しかしその混合気体を白金綿に触れさせると、ただちに爆発が起きて、水蒸気になってしまう。この時白金綿は、反応の初めと終りとに変化が無く、反応は水素と酸素との間だけで起り、白金綿は単に反応を促進させる役目だけをつとめる。即ち触媒として働くだけである。
米の主成分たる澱粉は、炭酸ガスと水とだけから出来るもので、酸化すれば、再び炭酸ガスと水とに分離してしまう。従って化学的に炭酸ガスと水とから澱粉を合成することも出来るはずである。しかしこの反応は実際には非常に困難であって、今日の進歩した有機化学の力をもってしても、殆んど不可能である。それを葉緑素は簡単に為し遂げるのであって、炭酸ガスと水とから、殆んど瞬間的に澱粉を作ってしまうのである。