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いねのいちにち

稲の一日

中谷 宇吉郎

「世界」1946(昭和21)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,013 字 · 20 页

青空文庫

もし前者であるとしたら、稲が一日が二十四時間であることを知っていることになる。ところがもし後者であったならば、稲が絶対的の時の長さというものを知っている必要は無いので、ただ温度と照射との変化が、百二十回くり返されたことを知っていればよいことになる。われわれの知っているこの地球上で、日変化をするものは、温度と明暗ばかりでなく、気圧、イオン量、その他いろいろな要素があるが、話を簡単にするために、その中で最も重要らしい二要素、即ち温度と照射だけを採り上げて考えてみる。もし必要があれば、その他の要素についても同様に考えて行けばよい。

種から芽が出て、それが生長をして、炭酸ガスと水とから澱粉を作る。この神秘な作用は、生命という不思議な力の賜物である。一つの生命が、自分の生長をして、さらに次の時代の生命を作るという神秘な過程を完了するのに、或る一定の時を要することは、疑う余地のないところである。しかしその時というのが、物理現象などを支配している時とは、少しばかりちがうのではないかということは、一応考えてみてよいことである。

例えば東北や北海道などで、普通の苗代時期に籾をまくと、水温は十度を一寸越した程度であって、発芽には十日くらいかかる。